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文藝春秋
グループ:Book
ランキング:5250
価格:¥ 590
発売日:2004-08
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ザックバランな小林が味わえる貴重な書
(2009-01-03)
普段は難解な評論を書く著者が、一般読者向けに"モノの考え方"を気儘に綴ったエッセイ。「メールツェルの将棋指し」と人工知能の関係から語り始める辺り、本書の性格を表している。本作品は好評だったようで、その後シリーズ化された。
一貫して述べられるのは、社会の巨獣性、社会の通念・イデオロギーを疑う"常識"の大切さ。文学に対する率直な思惟。時代は変れど、変らぬ人の心。機械・効率よりも心性が大事。論理を弄んでいるように見える著者が、実は現実を重視している事が窺える。「**」主義と言う固定観念を唾棄している事も分かる。「平家物語」、「ヒットラー」を語る辺りでは、いつもの思想論・文学論の香りがするが、概ね平易な表現を心がけているようだ。「姿ハ似セガタク、意ハ似セ易シ」等の逆説的言辞も味わえる。「福沢諭吉」の章は、詳細な論考で福沢の明察振りを浮き彫りにして秀逸。後半1/4程度は、主に自然・伝統を題材にしたエッセイになっており、これもまた一興である。特に「青年と老年」が面白かった。最後に「ネヴァ河」と題して、ドストエフスキーについて語る。
これらが、ポー、ソクラテス、プラトン、サルトル、井伏鱒二、本居宣長等を自在に引用して語られる。小林氏は読者の理解を深めるため、大事な箇所はワザと分かりずらく書いたと言われるが、個人的には本書のような素直な物言いが好きである。しかし、「のらくろ」の田河水泡氏が著者の義弟とは驚き。文士劇への言及等気取らない著者の姿が垣間見られ、小林秀雄の入門書として格好の本ではないかと思った。
なぜ、小林秀雄は乗り越えられないのか。
(2008-11-15)
小林秀雄の批評スタイルは、ある作品を前にしてその形式や歴史的意味ではなく、その作者の美意識や人間そのものを語ろうとするものである。勿論、会ったこともない故人達(=ソクラテスやドフトエフスキー、福沢諭吉にヒットラーまで!)の心理なんて客観的に判別することは不可能であり、「私はこう見た」という自分の思い込みと鑑識眼を特権化したスタイルであるともいえる。実際、「こう見た」という単純な結論をグルグル迂回しながら書くので、美文ばかりが読む者の頭を流れて、内容はあまり記憶に残らない。しかしこれは、何度でも読んで楽しめるという思わぬ効用を読む者に与える、ということだ。
下手な人間がやると嫌味にしかならないこのスタイルは、多くの模倣者を生んだが、後継者は生まなかった。それは、小林の批評家としての眼が卓越していたからである。宣長を論じながら殆どソシュールみたいなことを書いている「言葉」、フロイディズム批判と(武田泰淳的)司馬遷観が力技で錯綜する「歴史」、現在流行しているアニメ論と較べても卓越したディズニー分析である「漫画」、など本書所収のエッセイには読み応えのある内容のものが多い。
「世間は新事件と新理論を捜していて、青年なぞ必要としていないのではなかろうか」
(=ヨット好きが高じて太平洋単独横断を敢行した堀江謙一に対し、何千回も「なぜ、こんな冒険を行ったのか」と繰り返し聞く世間を評して。「青年と老年」より)
こんな名フレーズが満載のこれらのエッセイは、40年経っても全く古くなっていない。なぜなら、小林が書こうとしていたのは、人間が普遍的に持っている、何百年経ってもそう簡単に変わらない性質のものばかりだからだ。そして、彼が名人芸で書き出す普遍性というものは実際に結構的を得てしまっているだけに、単に新たな批評スタイルによって表層的に乗り越えられるものではない。そんな試みは文芸批評という死に絶えて久しいジャンルで細々と行われ続けられるだろうが、もはや陽の目を見ることは決してないだろう。なぜか。小林秀雄の文明批評が既に古典に成りかけているからである。そして、古典というのは常に新しい。
質の高い教養
(2008-05-13)
日本屈指の批評家、小林秀雄。
国語の試験などで取り上げられることも多いので、そちらでご存知の方も多いのではないかと
思います。
他のレビュアーも指摘していますが、「世の中の出来事に興味を持ち、深く考察をしていく」事に興味がある方向けです。
エッセイ風の書き出しから、核心に迫る筆はさすがです。
質の高い教養を得ることができる 名著です。
ヒントを生かす
(2007-06-16)
本書は、読者に新鮮な視点を提示する「考えるヒント」、
それより、もう少し軽い感じの「四季」、
最後にソヴィエト紀行の三部で構成されています。
江藤淳の解説に
「読むほどに、かつてないようなかたちで、精神が躍動しはじめるのを感じておどろくにちがいない」
とあります。言い得て妙だと思います。
なるほど、この本で提示されているのは「物事を考え抜いた上で捕らえた視点」。
その視点から物事を眺めれば、どんなことでも新鮮に映ります。
粋で清冽な人柄を感じさせる文体に引き込まれます。
今でもこの巨人を崇拝する知識人が多いのも納得できます。
読んだことがない人はもちろん、受験時代に読んでしまった人も再読することで
得ることが多い、おすすめの作品です。
堀江謙一の「太平洋ひとりぼっち」と岡潔の「春宵十話」が取り上げられているのが
個人的にはうれしかった。
俗中の真
(2005-10-26)
最近、「新・考えるヒント」という本が出て、改めて注目されたのも記憶に新しい。そちらも読んだが、文章の風格という点で、やはり本家には及ばない。その中でも引用されている語句を用いて言えば、晶子女史の批評精神は患者側ではなく、医者側のものである。小林は近代の毒を若いころに飲んでいる。晶子女史もまったくのオリジナルの著作のほうが私はいいと思う。小林に惚れているのはよくわかるのだけれど。
小林のものは、文体は平易でさりげなく書かれているが、実は深い文明批評集になっている。どれもいいが、特にプラトンやヒトラーを扱った文章は秀逸。小林の発想は公式的思想からされていないから、いつ読んでも新鮮である。言わば、ここでは文体が思考している。すぐ古びるような固定観念が押しつけられた文章ではない。契沖の言う「俗中の真」を具現化したのが、この「考えるヒント」である。たとえば、「人を笑うのだけが笑いではない。子供ならみんな知っている。生きるのが楽しい、絶対的な笑いもある。いよいよ増大する批評的笑いの不安と痙攣との中で、この笑いを、恢復しようとしたのが、ディズニーの創作であった」(「漫画」)という一節。小林以外の誰が日本人として、いち早く、ディズニーの本質をこれほど的確にとらええただろうか。
活字を新装版で大きくしたのだが、余白とのバランスはいまいち。読みやすさとは活字の大小だけで決まるのではない、ということを配慮してほしいと感じた。
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